2009年3月3日火曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

第3 争点に対する判断
1 争点1(管理監督者)
 原告が労働基準法41条2号において時間外,休日及び深夜の割増賃金(残業代)に関する規定の適用を除外されている管理監督者であることは,被告が立証責任を負う抗弁であるところ,次に述べるとおり,これを認めるに足りる証拠はない。
(1)争いのない事実(2)記載のとおり,原告が,被告において,生産統轄本部の技術課課長であったことは当事者間に争いがない。
 また,乙第6号証,第12号証,原告本人及び被告代表者の各尋問の結果によると,技術課には,課長である原告のほかに,平社員が3名,パートが5名程度所属していたこと,技術課の具体的な仕事の内容は,顧客の依頼によりデザイン課が作成したデザインをもとに,版下となるシルクスクリーンを作成し,これに調合したインクをのせて,無地のTシャツ・ジャンパーなどにこのデザインをプリントするというものであること,原告もこれらの作業を直接担当していたこと,技術課の中で課長である原告のみが担当していたのは,業務課から技術課に発注されてきた量が多く,技術課の社員・パートのみでは納期までに納入することができない場合に,その一部を外部の提携業者に発注すること,発注する先の業者を選定すること,部下の第一次的な人事考課を行うこと程度であったことが認められる。
 そして,これらによると,原告は現場のいわば職長という立場にすぎず,その具体的な職務内容,権限及び責任などに照らし,原告が管理監督者であるとすることはできない。
 なお,原告本人の尋問の結果によると,原告の時間外労働(残業),休日労働のほとんどは,業務課から技術課に対して技術課で時間内に処理しうる限度を超えた量の発注がされたことが原因で,原告が自らプリント作業を行うために費やされたことが認められ,原告の時間外労働(残業),休日労働が,被告のいう管理・監督に関する作業に費やされたことを認めるに足りる証拠はまったくない。
(2)原告が,1か月に2回程度実施される経営会議に出席していたことは当事者間に争いがない。
 そして,乙第1号証,原告本人及び被告代表者の各尋問の結果によると,この経営会議は,月々の営業目標の設定,売上げノルマの到達度の確認などを行う会議であることが認められ,この会議において,原告が,被告の経営についての重要事項に関して何らかの積極的な役割を果たしたことを認めるに足りる証拠はない。
 なお,原告の具体的な職務内容などについては,(1)で認定判示したとおりである。
(3)被告は,原告に支給されていた給与が社内でも屈指のものであった旨を主張する。
 しかし,その比較の対象を,被告と労働契約を締結しているわけではない代表取締役・取締役に求めるのは相当ではなく(ちなみに,被告が主張するこれらの者に関して,どの程度の時間を職務にあてているかを認めるに足りる証拠もない。),原告が課長に昇進した前後の比較や,他の平社員との比較をしなければ,原告が管理監督者として処遇されているというに足りる給与を得ているかどうかは明らかとはならない。そして,この点に関する証拠はまったく存在しない。
(4)被告は,原告の出社・退社の時刻は原告の自由に委ねられていた旨を主張する。
 しかし,これを認めるに足りる証拠はまったくなく,むしろ,乙第2号証の1,原告の本人尋問の結果,検証の結果によると,被告の就業規則においては始業が午前9時,終業が午後6時と定められていること,原告はこの時間帯には会社にいるか,製品の発注のための取引業者との打合せなどの被告の業務に従事していたことが認められる。
2 原告と被告との労働契約の内容
(1)争点2(原告が請求しうる額)に対する判断に先立ち,その前提となる原告と被告との間の労働契約の内容について検討する。
 もっとも,本件においては,原告と被告との間で「労働契約書」という文書が取り交わされたことを認めるに足りる証拠はない。また,乙第2号証の1ないし3,第3号証,検証の結果,弁論の全趣旨によると,被告においては,適法に制定された就業規則が存在すること,被告の賃金規程はこの就業規則で引用されており,その一部となっていることが認められる。
 したがって,労働基準法93条により,原告と被告との間の労働契約は,就業規則・賃金規程で定める基準によるということができる。ただし,同法13条により,これらが労働基準法で定める基準に達しない場合には,その部分については無効となり,この場合には,無効となった部分は同法が定める基準によることとなる。
 そこで,就業規則,賃金規程の順に,必要な限度でその内容を検討し,ついで,これらが労働基準法の定める基準に達するか否かを検討する。

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。