2009年4月11日土曜日

未払いの残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。


(2)就業規則
 乙第2号証の1,検証の結果によると,被告の就業規則には,次のような定めがあることが認められる(なお,本件に関係のない条項については摘示しない。)。
(勤務時間)
第6条 勤務時間は,休憩時間を除き,1日8時間,1週48時間とする。
(始業,終業の時刻および休憩の時刻)
第7条 始業,終業の時刻および休憩の時刻は次のとおりとする。
1 通常勤務
始業 午前9時
終業 午後6時
休憩 午後0時30分より午後1時30分まで
(2号は省略)
(時間外労働(残業))
第11条 業務の都合により所定時間外に労働させることがある。
(2項以下は省略)
(休日)
第12条 休日は次のとおりとする。
1 1週に1日休日を与える。
2 年末年始の指定された日 5日間
3 夏期休暇に指定された日 5日間
(休日の振替)
第13条 業務の都合でやむを得ない場合は,前条の休日を1週間以内の他の日と振り替えることがある。
(2項は省略)
(休日労働)
第14条 業務上必要がある場合には,第12条の休日に労働を命ずることがある。
(2項以下は省略)
(非常災害時の特例)
第15条 事故の発生,火災,風水害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合には,第11条または第14条の規定にかかわらず,すべての従業員に対し,第6条の労働時間を超えて,または第12条の休日に労働させ,若しくは午後10時から午前5時までの深夜に労働させることができる。
(割増賃金(残業代))
第16条 第11条,第14条,または前条による時間外労働(残業),休日労働または深夜労働に対しては,賃金規程の定めるところによって割増賃金(残業代)を支払う。
(適用除外)
第17条 労働基準法第41条第2号または第3号に該当する管理監督者または監視断続労働従事者等については,本節(深夜労働に関する定めを除く。)の規定は適用しない。
(注 なお,ここでいう「本節」とは第6条から第17条までである。)
(賃金)
第41条 従業員の賃金は,別に定める賃金規程により支給する。
(3)賃金規程
 乙第3号証,検証の結果によると,被告の賃金規程には,次のような定めがあることが認められる(なお,本件に関係のない条項については摘示しない。)。
(賃金の構成)
第2条 賃金の構成は次のとおりとする。
賃金
基本給
諸手当 役付手当
    家族手当
    通勤手当
    職能手当
割増賃金(残業代) 時間外労働(残業)割増賃金(残業代)
     休日労働割増賃金(残業代)
     深夜労働割増賃金(残業代)
(時間外労働(残業)割増賃金(残業代),休日労働割増賃金(残業代),深夜労働割増賃金(残業代))
第9条 所定就業時間を超えてまたは休日に労働した場合には時間外労働(残業)割増賃金(残業代)または休日労働割増賃金(残業代)を,深夜(22時から5時までの間)において勤務した場合には深夜労働割増賃金(残業代)を,それぞれ次の計算により支給する。
(1号省略)
2 月給の場合
時間外労働(残業)割増賃金(残業代)
(基本給+役付手当+職能手当)÷1月平均所定労働時間×1.25×時間外労働(残業)時間数
休日労働割増賃金(残業代)
(基本給+役付手当+職能手当)÷1月平均所定労働時間×1.25×休日労働時間数
深夜労働割増賃金(残業代)
(基本給+役付手当+職能手当)÷1月平均所定労働時間×0.25×深夜労働時間数
〔2〕所定就業時間を超えて,または休日に労働した時間が深夜に及んだ場合は,それぞれ,時間外労働(残業)割増賃金(残業代)または休日割増賃金(残業代)と深夜労働割増賃金(残業代)を合計した割増賃金(残業代)を支給する。
(役付手当)
第10条 役付手当は職務上,責任の重い管理的地位にある者に対し次の額を支給する。
(注・続いて,職名,支給額の欄を設けた表が記載されているが,表中の記載はない。)
(4)労働基準法所定の基準に達しないもの
 上記就業規則・賃金規程の定めのうち,次の部分は労働基準法所定の基準に達しないため無効である。
ア 労働基準法32条1項は,使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない旨を定める。
 したがって,被告の就業規則6条の定めのうちこれに反する部分は無効であり,労働基準法所定の基準によることとなる。
イ 労働基準法37条,労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金(残業代)に係る率の最低限度を定める政令,労働基準法施行規則20条によると,時間外,休日及び深夜の割増賃金(残業代)は,通常の労働時間における賃料に,時間外労働(残業)においては2割5分以上,休日労働においては3割5分以上,時間外労働(残業)と深夜労働が重なるときは5割以上,休日労働と深夜労働が重なるときは6割以上の割増賃金(残業代)を加えたものでなければならない。
 したがって,被告の就業規則16条,賃金規程9条のうちこれに反する部分(休日労働,休日労働と深夜労働が重なるとき)は無効であり,上記基準によることとなる。
ウ 労働基準法37条4項は,割増金額の基礎となる賃金には,家族手当,通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない旨を定め,これを受けて労働基準法施行規則21条は,家族手当及び通勤手当のほかに住宅手当も割増賃金(残業代)の基礎となる賃金には算入しない旨を定める。
 これに対し,上記認定判示のとおり,被告の賃金規程においては,割増賃金(残業代)の基礎となる賃金は基本給,役付手当,職能手当の和である旨を規定する。
 そして,乙第7号証によると,原告が受け取っていた賃金の中には「地域手当」が含まれていることが認められ,これは労働基準法,同法施行規則により,割増賃金(残業代)の基礎となる賃金から除外することが認められていないから,上記賃金規程に「地域手当」が含まれていない点は無効であり,これも割増賃金(残業代)の基礎となる賃金に含まれる。
エ なお,被告の就業規則17条は,管理監督者であっても深夜労働の割増賃金(残業代)に関する適用除外を行わない旨を定める。そして,これは,労働基準法の定めとは異なるが,同法の定めと比較して労働者に有利な変更であるから,同法13条の適用はなく,有効である。
 したがって,争点1(管理監督者)に関する被告の主張を前提とした場合であっても,被告は,原告に対し,深夜労働の割増賃金(残業代)を支払うべき義務を負う。

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